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【日本経済新聞】岩井克人教授 「言語・法・貨幣」 -未来世代の代表を

岩井克人教授の「21世紀と文明」 No.8

【 やさしい経済学「21世紀と文明」08.06.11日経新聞(朝刊)】

「言語・法・貨幣と『人文科学』」

8.未来世代の代表を

東京大学教授 岩井克人


21世紀――。言語と法と貨幣が生み出す人間社会の「危機」は、さらに激しさを増すはずである。ネット上のコミュニケーションはポピュリズムを進め、多様な権利の主張は法の合理性を揺るがし、市場のグローバル化はサブプライム問題のような経済波乱を繰り返すだろう。

人間には、言語や法や貨幣の介入を嫌悪し、知り合ったもの同士が身を寄せ合う小さな社会に回帰したい願望がある。だが、もはや後戻りは不可能だ。すでに人間は「自由」なるものを知ってしまったからである。

自由への欲望は無限である。人間が自由を求める限り、言語と法と貨幣の媒介が必要となる。自由を知った社会的生物としての人間は、いくら母体回帰の願望が 強くても、見知らぬもの同士が同じ人間として関係し合える「人間社会」の中で生きていかざるをえない。そして、それが生み出していく「危機」を一つ一つ解 決していくより他はないのである。

いや、21世紀において私は、言語と法と貨幣が媒介するこの「人間社会」をさらに拡大する必要があると考えている。すでに地球全体を覆っているのに、一体どこに拡大するのかと問われるだろう。地球の外ではない。地球上に住む「未来の人間」に向かってだ。

いま人間社会が直面している最大の問題が地球環境問題であることは、人類共通の認識である。それは、生態系の破壊、地球温暖化、資源の枯渇等さまざまな形 をとっている。だが、生き物のいとおしさといった議論を脇に置けば、問題の核心はただ1つ――現在世代の経済活動が、未来世代の生活環境を一方的に悪化さ せているということである。

この問題は、もし未来の人間がタイムマシンに乗って「人間社会」の一員になることさえできれば、原理的に解決可能になるはずだ。未来世代は現在世代に対 し、言葉を使って説得をはじめ、自分たちの生活環境に関する権利を承認させ、その権利の使用料として環境悪化に対する対価を請求するだろう。

もちろん、タイムマシンは不可能である。だが、人間はその代わりに、まだ見も知らぬ未来の人間も同じ「人間」とみなす「想像力」を持っている。その力に よって、未来世代の利害を代表する組織を創造することは不可能ではない。この可能性を制度化すること――それが21世紀における人文科学、いや科学の最大 の課題になるはずである。

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岩井克人教授の「21世紀と文明」 No.7【日本経済新聞】岩井克人教授 「言語・法・貨幣」 -自由と危機

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