日曜日 , 11月 18 2018
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【論説】岩井克人 「会社は必ずしも会社のものではない」Financial JPN

岩井克人教授による法人論

日本は保身経営者とグリーンメーラーの天国

日本では、敵対的買収のプロセスがひどく不透明だ。多くの会社が導入しているアメリカ型の買収防衛策はいまだに適法であるかは不確かだ。確かに、ブ ルドックソースがスティール・パートナーズに適用した買収防衛策に関しては、裁判所が適法であるという判断をしたが、それは株主総会がお墨付きを与えたと いう理由からであり、しかも営業利益が7億円程度のブルドックソースがスティールに20億円以上の損失補償を行うことを許してしまった。
これはまさに一部のファンドへの「グリーンメール」の招待状であると同時に、多くの経営者への「株式持ち合いによる防衛」の勧誘状でもある。その結果、日 本市場が不透明化し、国内外の投資家の日本離れを促し、株価低迷の要因になっている。東京財団では、議論を重ねた結果、このような事態を解消するためには 一刻も早く、買収に関する法的なルールを整備することが不可欠だと考えるに至り、このほど提言をまとめた。

議論の出発点としては、会社というものの存在理由は社会に対して付加価値を生み出し、「国富」の発展に貢献するものだという点にある。「良い会社」 とは「大きな付加価値を生み出す会社」のことであり、「良い経営者」とは「付加価値を高める経営者」のことである。この観点から言えば、会社の買収とは、 株式市場を通じて「良い経営者」を選別していく仕組みと見なすことができる。それによって、経営資源の配分が効率化され、国富が発展することになる。
われわれの提案は大別して三点だ。まず一つは、会社支配権の移転手続きの明確化だ。議決権の行使について、株主が保有する株式数が発行済み株式総数の 20%未満であることを行使条件とすることができるようにするものだ。ただし、この条件は取締役会の決議によっていつでも解除できる。
次に、公開買い付けに関するルールの変更だ。現行の最長60営業日から120営業日まで延長するとともに、取締役選解任の委任状争奪戦の勝利を条件とした公開買い付け(TOB)を認める。
最後に、複数議決権株式の上場など、種類株式の上場容認だ。

提言が実現されるとどうなるか? ある投資ファンドが買収したい会社の株式を買い増していく。20%を超えたら議決権を失うので、19・9%まで買 い進めた段階で、現経営陣と交渉せざるを得なくなる。そこで交渉が妥結すれば、「友好的買収」となるし、決裂すると「敵対的」となり、取締役の選任、解任 に関する「委任状争奪戦」が始まる。株主総会が勝負の場だが、現行の制度と違い、株主が判断するのは「現経営陣の買収防衛策が良いかどうか」ではなく、あ くまで「現経営陣と買収者が提案する新経営陣のどちらが良い経営者か」である。委任状争奪戦の勝利を条件とした公開買い付けを可能にすることで、買収側の 負担も増やさないよう配慮もしている。

20%という数字は、買収者と現経営陣とが委任状争奪戦で対等に勝負するための基点である。上場会社の総会における現状の議決権行使比率が 70~80%前後であるため、実質過半数は30~40%となり、20%以上買い占められるとその時点で事実上現経営陣の敗退が決まってしまうからである。 この基点を何%にするのが望ましいかは、今後の研究次第だ。18%かもしれないし、25%が良いかもしれない。
またわれわれの提案では、しばらく別の買収者による対抗提案ができなくなるが、それは「良い買収」を長期的に増やすことに繋がると考えている。それは、買 収価格つり上げ競争の過熱による「勝者の災い」をなくすだけでなく、良い買収先を最初に見つけたファンドがリサーチのためにかけたコストに二番手三番手が ただ乗りするのを防ぐことになる。ちょうど特許権が発明のプレミアムを高めて技術革新を促すのと同様に、買収のプレミアムを高めて、良い買収先の探索を促 すことになる。

株式の売買とリンゴの売買その根本的な違いとは

株式の売買は、リンゴなどの商品の売買とそもそも異なる。リンゴの場合、高い価格を提示した人はそのまま高い価値を与える人である。だが、株式の売 買には、本質的に「経営支配権の移動」が伴っている。だれが経営権を支配し、だれを経営者に選ぶかによって、会社が生み出す付加価値が変わり、国富も変わ るのである。
現状では、「買収はすべて悪」という考えがまん延している。ことに経営者にその傾向は顕著だ。他方、ファイナンス原理主義者は、会社の買収とリンゴの売買とを同一視し、法的ルールを導入することに拒否反応を示している。
だが、買収には「良い買収」と「悪い買収」があり、財団の提言は、良い買収を選ぶための仕組みを作ろうというものだ。しかも、判断を裁判所ではなく、株主 に任せている。重要なことは、株主や裁判所に道徳的な判断を迫るのではなく、人々が自己の利益を追求する結果、良い経営陣が残るような制度を設計すること にある。
公開買い付け価格のみで会社経営権が移動しうる現状の制度では、株主が「良い経営陣」を選ぶためのインセンティブ(動機付け)が乏しい。既存の株主は、高 値で売り抜いてしまえばよいので、会社のその後の業績には無関心である。これに対し、われわれの提案では、委任状合戦後も引き続き株式を持つ株主が判断す るので、会社の付加価値を大きくする経営者を選ぶインセンティブが与えられる。

しかも、この制度の下では、会社経営には関心を持たず、経営陣に圧力をかけて高値で株式を買い取らせるグリーンメーラーの活動の余地はほとんど消えてしまう。
またわれわれは、「所有と経営」を必ずしも同一にすべきと考えているのでもない。経営に関心がなく、保有利益だけを欲しいのであれば、20%を超えても、 現経営陣との交渉の結果、「友好的買収」となるはずである。折り合いがつかなくても、委任状争奪戦を提示価格のみで勝負する余地がある。
副次的な効果として、経済合理性のない株式持ち合いの解消にもつながるだろう。持ち合いには、企業間で技術や人材の面での協力関係の担保など、経済合理性 をもつものも多い。だが、現状の持ち合いは、専ら買収防衛の観点からの経済合理性のないケースが多いが、持ち合いそのものを法律で禁止することは極めて難 しい。
持ち合いをしなくても、「良い経営」をしていれば、委任状争奪戦で勝てるため、持ち合いのインセンティブは減る。今のようにサブプライム問題などで株価が下がり、資産構成が激変している中では、合理性のない持ち合いは、株主から支持されなくなるはずだ

Financial Japan より一部抜粋

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